診療ノート|塩筑医師会

#49 涙道疾患の治療法

【まつだアイクリニック 水口 千佳】

涙液は眼表面を潤して瞬目を円滑にし、また酸素を供給するとともに光学的に平滑な涙液フィルムを形成することによって視機能に貢献している。涙液は内眼角にある上下の涙点から取り込まれ、涙小管、涙嚢、鼻涙管を通って下鼻道へと流れる。
この排水路"涙道"は眼表面の衛生状態を保ち、適正な涙液量を維持する機能を持つが、その機能低下は流涙や眼脂による不快感、過剰な涙液が形成する不均一な涙液フィルムによって視機能障害を引き起こす。
鼻涙管閉塞症は中高年のことに女性に多くみられ、流涙による視機能低下をきたし、涙をたえずふき取る必要があるなど日常生活での不快を訴えることが多い。涙点以降の涙道は皮下から骨の中を通り抜けて鼻腔へ移行するため、病態の直接観察や病態把握が容易ではない。本症に対する治療は従来金属ブジーが用いられてきたが、この方法は涙道を直視することなくブジー先端からの感触だけを頼りにした盲目的な操作であり、鼻涙管の粘膜損傷が起こりやすく再発例も多かった。"涙道内視鏡"の開発以来、以前はブラインドで行っていた涙道疾患の治療は飛躍的な進歩を遂げ、的確な病態把握が可能となった。内視鏡観察下に適切な位置に涙管チューブを留置して涙道閉塞を低侵襲に治療することが可能になった。 
一方、涙道内視鏡を用いても閉塞が強固で解除できない鼻涙管閉塞症や、涙管チューブを挿入しても閉塞が再発する難治症例、慢性涙嚢炎などには、涙嚢と鼻腔との間に新たなバイパスを作成する涙嚢鼻腔吻合術(Dacryocystorhinostomy:DCR)が適応になる。

1.涙道内視鏡を使用した涙管チューブ挿入術
総涙小管閉塞、慢性涙嚢炎のない鼻涙管閉塞、涙点閉鎖などは涙管チューブ挿入術の良い適応である。
涙道内視鏡システムは、涙道に挿入するプローブ部の外径が0.7mm(主に小児用)と0.9mmのものがあり、その中に対物レンズ、イメージガイドファイバー(画像伝送用)、ライトガイドファイバー(照明用)、チャネル(通水用)を有し、外観は"先1cmを少し上に曲げた爪楊枝"程度の太さ・長さである。 
涙道内視鏡手術のメリットは、顔面皮膚の切開・鼻粘膜の切開・骨窓の作成が不要で、出血もごくわずかであり低侵襲なことである。局所麻酔下で施行でき、全身状態のあまりよくない場合や、抗凝固薬使用中で出血のリスクが高い場合にも比較的安全に行える。涙管チューブは2~3か月留置した後に抜去する。デメリットは長期の術後成績が良くなく再閉塞をきたす症例があることや、定期的な涙道洗浄を必要とすることである。

2.涙嚢鼻腔吻合術:DCR
DCRの適応疾患は閉塞が強固で涙道内視鏡下で解除できない鼻涙管閉塞症、涙管チューブを挿入しても抜去後に閉塞が再発する症例、慢性涙嚢炎などである。
DCRには皮膚側から涙嚢にアプローチをする鼻外法と、鼻内から粘膜と骨を切開して涙嚢へアプローチする鼻内法がある。
鼻外法は内眼角に切開を入れ鼻骨・涙骨付近に骨窓を作成し、鼻粘膜と涙嚢を吻合する術式である。局所麻酔下ででき、術野が広くワーキングスペースが十分に確保できるので涙嚢を大きく展開して鼻腔粘膜と正確に吻合・縫合できる。しかし患者は特に女性が大多数を占めているため、顔面に手術痕が残るという点で整容的問題がネックとなる。
一方、鼻内法は鼻内視鏡を用いて鼻内からドリルで涙骨付近を穿破して涙嚢へ到達する方法で顔面の切開を必要としない。しかし鼻内操作はワーキングスペースが狭いため、鼻中隔湾曲症がある症例では矯正手術が必要となったり、鼻腔側から涙嚢へアプローチするのに問題となる疾患がないかを把握する必要があるため、眼科医にはハードルが高い。手術は一般的に全身麻酔が必要であり、また骨窓や涙嚢の展開が不十分であると術後再閉塞する可能性もある。
世界的視点で眺めると、涙道疾患の治療は鼻内法・鼻外法ともに約100年の歴史を持つDCRが最も広く普及している。涙道内視鏡手術は開発からまだ40年程度しか経過していないにもかかわらず、興味深いことに我が国においてはDCRよりも盛んに行われている。"流涙"という症状があった場合、一般的に患者は「眼科」を受診するが、高度の鼻涙管閉塞や慢性涙嚢炎であった場合、特にDCR鼻内法を選択する場合は転じて耳鼻咽喉科領域の対象となってくる。耳鼻咽喉科医と眼科医が協力し、お互いの利点を生かすことによって涙道疾患の治療の幅が広がり、最適な治療を提供することが可能となってくる。

~最後に~
現在、私が眼科的な窓口として当院で流涙疾患を担当しておりますが、涙道内視鏡手術およびDCRが必要な症例は松本歯科大学病院 涙道外来で耳鼻咽喉科 相馬啓子先生と治療を行っております。流涙症状でお困りの患者様がいらっしゃいましたらご紹介いただければと思います。

まつだアイクリニック 水口 千佳

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