診療ノート|塩筑医師会

#14 アミロイドーシスの現況

【医療法人元山会 中川 真一】

はじめに この夏、第1回日本アミロイドーシス研究会学術集会が東京で開催され、その大会長を、信大医学部脳神経内科、リウマチ・膠原病内科の池田修一教授が務めた。その目的は、近年のアミロイドーシス研究の著しい進歩を一般医家に広めることにあるとのことであった。私は、十数年ぶりにアミロイドーシス研究の最前線の発表に触れ、その進歩に感銘を受け、医師会の先生方にも知って貰う価値もあるであろうと考え、「診療ノート」への掲載を決めた。
アミロイドーシスとは アミロイドーシスとはアミロイド線維と呼ばれる異常蛋白が全身の様々な組織や臓器に沈着し、それらの機能障害を生じる疾患の総称である。アミロイドの沈着が認められる組織や臓器には、脳、心臓、消化管、腎臓、肝臓、肺、末梢神経、腱、骨格筋、血管、皮膚、眼等多くの組織と臓器がある。それらへのアミロイドの沈着による機能障害が症状として出現する。

アミロイド蛋白:アミロイドは線維構造を持つ特異な蛋白であり、それらの原因蛋白は27種類存在している。例えば、免疫グロブリン性アミロイドーシスでは、免疫グロブリンのlight chin(軽鎖)やheavy chain(重鎖)が原因蛋白となる。反応性AAアミロイドーシスでは、急性期反応性蛋白であるserum amyloid A(SAA)が原因蛋白となる。家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)では、異型トランスサイレチンが原因蛋白となる。アルツハイマー型認知症では、Aβ蛋白が原因蛋白となるという具合である。

アミロイドーシスの分類(表1):アミロイドーシスは、全身性アミロイドーシスと限局性アミロイドーシスに分かれる。全身性アミロードーシスは、免疫グロブリン性、反応性、家族性、透析、老人性に細分類される。限局性アミロイドーシスは、脳、内分泌、皮膚、角膜、限局性結節性に細分類される。そしてすべてのアミロイドーシスのアミロイド蛋白とその前駆体蛋白が判明している。



アミロイドーシスの臨床 主なアミロイドーシスの臨床症状・診断・治療・予後について述べる。AAアミロイドーシスは、急性期炎症蛋白であるSAAを前駆蛋白として慢性炎症性疾患の経過中に続発し、原疾患としては、RAをはじめとするリウマチ性疾患の頻度が最も高い。最も早期に出現しやすいのは消化器症状である。腹部膨満、嘔気、腹痛などを認める。難治性下痢や麻痺性イレウスを全身状態悪化時などに認める。腎症状では、早期から血尿や蛋白尿を認め、やがて腎不全へと進行する。心臓へのアミロイド沈着は少量かつ血管周囲に限られることが多く、重篤な心病変をきたすことは少ないが、進行期にはしばしば循環器症状を認めることがあり、伝導障害や不整脈そして心不全を認める。生検臓器としては、上部消化管特に十二指腸生検が推奨される。治療は、前駆体蛋白SAAの産生をできるだけ抑えることが最も合理的である。リウマチ性疾患では、これまでの免疫抑制療法に加えて、抗サイトカイン療法の有用性が報告されている。TNF阻害剤は、強力にSAAを低下させる。IL-6阻害剤は、その作用機序から、ほぼ全例SAAの正常値化が可能であり、本疾患治療の主役と考えられる。AAアミロイドーシスの予後は悪く、50%生存率は2~4年となっている。ALアミロイドーシスは、多発性骨髄腫などに随伴するものと基礎疾患のない原発性とに分類される。異常形質細胞から産生されるM蛋白の軽鎖由来のアミロイドが、全身の諸臓器に沈着して機能不全を引き起こす予後不良の疾患である。原発性アミロイドーシスの臨床症状として、巨舌、起立性低血圧、ネフローゼ症候群、手根管症候群、末梢神経障害、骨格筋の硬結、皮膚アミロイド等を認める。本症では病初期から消化管粘膜にアミロイドの沈着を認めることが多く、内視鏡検査を行い、生検組織から容易にアミロイドーシスとの診断に至る。生検組織でアミロイドの沈着を認めた場合には、それがALアミロイドであることを同定する。通常、アミロイド線維あるいはその前駆体蛋白に対する抗体を一次抗体として用いる免疫組織学的診断法が用いられている。また、血清遊離軽鎖(FLC)測定法の導入は本症の診断と治療効果の判定に大きく貢献している。治療法としては、大量melphalan投与+auto-PBSCT(自己末梢血幹細胞移植)が原発性ALアミロイドーシスの標準的治療として認められている。一方、移植非適応症例においてはmelphalanとdexamethasoneの併用療法が標準的治療として行われている。近年、多発性骨髄腫に用いられるthalidomide、lenalidomaide、bortezomibなどの新規薬剤の導入により、新たな光明が見られつつある。原発性アミロイドーシスでは、無症状のうちに各臓器へのアミロイド沈着が進行する。症状が発現すると進行が速く、平均生存期間が12カ月と予後は極めて不良である。家族性アミロイドーシスの内、長野県のFAPについて述べる。アミロイドは変異型トランスサイレチンにより形成される。遺伝形式は常染色体優性遺伝である。男女比は1:1で初発年齢は21歳から69歳で、約半数は20歳代後半から40歳代前半にかけて発症する。末梢神経障害の症状としては、温度覚と痛覚が優位に障害される解離性感覚障害、胸腹部の島状の感覚障害、四肢の筋萎縮と筋力低下等を認める。自律神経障害としては、交代性の便秘と下痢、周期的に現れ数日間続く嘔気・嘔吐発作、起立性低血圧、男性での陰萎等を認める。一般臓器での障害としては、人工ペースメーカーの植え込みを要する心臓刺激伝導障害、進行期での腎不全等を認める。診断は、FAPを疑ったら生検によりアミロイド沈着を証明する。通常は、胃・直腸粘膜、腓腹神経生検を行うが、池田らは腹壁脂肪の吸引生検を多用している。生検組織にアミロイド沈着が検出されれば、変異transthyretin(ATTRVal30Met)の存在を血清または遺伝子レベルで確認する。根本的な治療としては、肝臓で90%以上のトランスサイレチンが産生されるため、肝移植が行われている。この治療は1990年にスウェーデンで最初に行われた。我が国では、1993年に世界で最初のFAPに対する成人間肝移植が、信大で行われた。信大第3内科ではこれまでにFAPで50例以上の肝移植の実績がある。肝移植後症状の進行は停止し、神経組織への新たなアミロイドの沈着を認めていない。薬剤としてはアミロイド線維の形成を抑制する薬剤やトランスサイレチン産生抑制を目的とする核酸医薬による遺伝子治療が治験段階にある。予後では、肝移植を受けない場合、多くは発症後10年前後で臥床状態となり、12~15年の経過で死亡する。限局性ALアミロイドーシスの好発部位は、脳、喉頭、肺、消化管、尿路および皮膚である。限局性のアミロイド沈着はしばしば腫瘤を形成し、amyloidomaと呼ばれるが、悪性腫瘍との鑑別が重要である。尿管と膀胱にALアミロイドが限局性に沈着し、尿管狭窄や膀胱出血の原因となることがある。また、最近注目されている病態として、シェーグレン症候群に皮膚の結節性ALアミロイドーシス(amyloidoma)が高率に合併することが知られるようになった。限局性アミロイドーシスにおいては、アミロイド沈着を来している臓器または組織の局所でアミロイド前駆蛋白が産生されており、アミロイド沈着病変が広範に進展することがないため、患者の生命予後は良好である。侵された臓器が高度の機能障害を呈した場合には、外科的切除等適切な治療が必要となる。

アミロイドーシスその他の知見 ①アミロイドーシスと伝播:プリオン病では、体外から侵入した異常構造プリオンが正常プリオンの構造変化を誘発し、体内での増殖と蓄積を惹起する。これと類似した現象をアミロイドーシスでも認める。マウス反応性アミロイドーシスや老化アミロイドーシスでは極微量のアミロイド線維の投与がアミロイドーシスの発症を促進する。このような促進はアミロイド線維の構造に依存している。これらのアミロイドーシスでは、ヒトやマウスの各種天然アミロイド線維や試験管で合成したアミロイド線維の投与もアミロイド沈着を誘導する。すなわちアミロイド線維が自己とは異なった種類のアミロイド蛋白質の線維形成を促進することが示されている。この分野における研究では、信大の樋口京一教授(大学院医学系研究科疾患予防医科学系加齢生物学)が第1人者として活躍している。②動物におけるアミロイドーシス:動物におけるアミロイドーシスは約10種類ある。最も多いアミロイドーシスはAAアミロイドーシスで、様々な動物で報告されているが、特に水禽類とネコ科動物に多い。また飼育下のチーターでの死因としても重要である。イヌではアミロイド沈着を伴う形質細胞腫が皮膚や粘膜に比較的多く発生し、限局性ALアミロイドーシスと診断されている。Aβはサル、クマ、イヌ、ネコ、ラクダ、キツツキなどで報告されている。多様な動物種を対象とする獣医学領域の利点を生かし、比較生物学的観点から解析を行うことはアミロイドーシスの発症メカニズム解明につながる新しいアプローチとして期待されている。

おわりに 今回のアミロイドーシス研究会・学術集会に参加し多くの発表に接することにより、これまでのアミロイドーシスに抱いていたイメージが随分と変化した。難治で予後不良と言われていたアミロイドーシスに、新たな治療法と薬物が導入され、それらの予後の改善に大きな影響を与えていることを知った。さらにプリオン病と同じような伝播がアミロイドーシスでも起こっていることを知り、大きな驚きを覚えた。世界におけるアミロイドーシス研究の拠点の一つが信大にあり、誇らしく思えると同時に、さらなる発展を期待したい。


参考文献
1)第1回日本アミロイドーシス研究会・学術集会「プログラム・抄録集」2013.8.30東京 
2)アミロイドーシスの基礎と臨床.石原得博、監修.池田修一、編集.東京:金原出版:2005

医療法人元山会 中川 真一

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