診療ノート|塩筑医師会

#21 大腸癌肝転移の治療方針(当院の場合)

【まつもと医療センター松本病院 北村 宏】

一般に知られているように大腸癌の遠隔転移は肝と肺に生じやすく、治療にあたっては双方とも切除が望ましいとされています。肝転移の場合、肝切除によって1/3ほどの症例で根治が得られるとされていますが、発見時に切除可能な症例は多くありません。

切除不能な症例を切除可能にしていくにはどうしたらよいか?まず切除不能な症例とはどのような場合かを挙げてみましょう。

1.術後の残肝容積が35%を下回ると予想される場合。
2.転移巣の数が無数にあると考えられる場合
3.肝内外の重要な血管または胆管に接したり浸潤している場合。

これらはいずれも、術後に残肝機能不足による肝不全を起こし死亡するリスクが高くなります。
このような場合は次のような対策を考えます。

まず正確な転移の個数と局在を把握するために最新の造影CT検査とEOB-MRI検査を行います。相互補完による検出能および診断能は術中超音波検査より高いと考えられます。この評価は肝転移に対するあらゆる治療の前に行うべきであります。何故なら化学療法などを始めてしまうと小さな病変は検出が難しくなり、その後切除を考慮した際、微小な癌が残っていた場合でもこれを確認し切除することが困難に陥るためです。

上記の検査による評価の結果、肝切除術がただちに適応にならない場合は次の中から方針を選択または組み合わせておこなっていきます。

1.腫瘍が肝の右か左に遍在している場合は癌が多く存在する肝葉の門脈塞栓術を行い、残肝予定側の肝容積を増大させ切除可能になるかを評価します。ただしこの方法で注意すべき点は、極端な残肝予定容積の増加は期待できないということです。

したがって期待していた容積の増加に満たなかった場合は時間のみ浪費しこの間に、腫瘍はさらに増大し手術へ踏み込めない危険性もあります。「もう少しだけ残肝容積に余裕があれば安全に手術を行える」という症例が良い適応と思われます。

2.全身化学療法を開始し腫瘍の縮小効果が見られた場合は、再度肝切除が可能か否かの評価をします。このとき化学療法を術前に行わず主だった腫瘍のみを切除しその後化学療法を行うということはせず、化学療法で効果が認められることを確認してから手術を行うようにしています。何故なら化学療法で肉眼的な切除可能になった場合では残肝に微小転移が存在しても、術後も術前と同様の強力な化学療法を行うことによってこれらの病変を制御できると考えられるからです。言い換えれば化学療法の効果が低いとわかっている場合は手術の効果だけでは予後に寄与しないと考えられるからです。

この方法は癌の減量手術が生存に寄与しないという、従来の考えにそぐわない点がありますが、あえてそのような方針とする根拠は次のようなものであります。

前出の画像診断の進歩により術前に微小な転移巣も評価可能となりましたが、それでも検出できない病変は栄養や酸素の供給が未発達な極小の転移巣であると仮定することができます。そのような病変には血管新生阻害剤などの分子標的療法剤や最近の抗癌剤の効果が顕著に出る可能があります。したがって手術で肉眼的に切除できて抗癌剤との相性も良い例では長期のコントロールあるいは治癒が期待できるという考え方です。

上記と異なり手術まで至らなかった場合には抗癌剤を投与し病勢をコントロールしていくことになりますが、確実に治癒まで導く薬剤はまだ市場にでておりません。しかし薬剤の進歩は日進月歩であり、いつか手術との組み合わせや手術の必要がなく治癒が得られる治療法が開発されるまでそれらの薬剤がつなぎの役割をはたしていってくれるものと信じています。

まつもと医療センター松本病院 北村 宏

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