診療ノート|塩筑医師会

#24 出血傾向

【松本歯科大学病院 小児科 塩原 正明】

鼻血が止まらない、手足の赤いぽつぽつが増えてきた、昨日軽くぶつけたところが大きなあざになってきた、など出血しやすいまたは血が止まりにくい症状を思わせる方の診察では緊張感が走ります。頭の中や関節内など体の内部での出血症状でみつかる疾患もあります。私の経験した3疾患について記載します。

ビタミンK欠乏性出血

血管壁が破たんした際の止血には、血小板凝集による一次止血と、さらに止血栓をフィブリンによりがっちりと固める二次止血があります。二次止血には1~13(6は欠番)の番号(本来はローマ数字です)が振られた凝固因子が肝臓で作られることが必要です。このうち2、7、9、10の番号のついた凝固因子の産生にはビタミンKが必要です。昔、「に」といって覚えました。ワルファリンは、このビタミンKのはたらきを阻害することでビタミンK依存性凝固因子の産生を低下させることで血液を固まりにくくさせるお薬です。内因性ビタミンKが何らかの原因で足りなくなると出血傾向を示すことがあります。

ビタミンKが不足しがちになるのが生まれたばかりの赤ちゃんや母乳で育つ乳児期です。その原因としてビタミンKの経胎盤移行がよくないこと、腸内細菌叢の発達が未熟なこと、母乳中のビタミンKが少ないことなどがあるようです。多くが頭蓋内出血で発症するため、その予防が重要と考えられるようになりました。そこでビタミンK2シロップの投与が、出生後、生後1週間、1ヶ月後の3回行われています。ただし、それでも発症するケースがあるため、毎週のビタミンK2シロップ投与を生後3カ月まで継続する方法もガイドラインに記載されていて、この方法をとる病院が多くなっています。
また母乳栄養児では母親がビタミンKの豊富な食物の摂取を心掛けることも大切です。

血小板減少性紫斑病

骨髄で血小板を産生する巨核球は増えているのに、免疫学的機序により血小板が破壊される結果、血管内を流れる血小板数が減少し出血傾向をきたす疾患です。血小板数が数千/μlで見つかることもあります。紫斑の他に血の涙を流して来院された方もありました。発症後6カ月以内に寛解する急性型と6カ月以降も血小板減少が続く慢性型に大別されますが、発症時にどちらのタイプか予測することは困難です。一般に小児では急性型が多い傾向にあります。

基本的に骨髄検査で、血小板付着のみられない幼弱な巨核球の増加と背景の細胞に異常がないことを確認することが大切です。出血時間の延長やPAIgG、抗血小板抗体などの検査値も参考にします。時にSLEや抗リン脂質抗体症候群などの基礎疾患が隠れていることがあるので、鑑別のための免疫学的検査も必要です。

急いで血小板を増やしたい時には入院してガンマグロブリンの投与を行います。貪食細胞のFc受容体をブロックすることで血小板の減少を抑える機序が想定されています。脳出血など、どうしても出血を止めなければならない場合血小板輸血を行うことがありますが、効果は一過性です。その後の維持療法として副腎皮質ステロイドの投与が必要な場合や脾臓摘出を行うこともあります。H. pyloriが陽性例では除菌により寛解することがあります。

最近、血小板産生作用を有するサイトカインであるトロンボポエチンの受容体作動薬が複数開発されました。慢性例や難治例に対して血小板数の維持が可能な治療としてその効果が期待されています。

血友病

乳幼児期の頭蓋内出血の原因として忘れてならないのが血友病です。血友病は広範な皮下出血や関節内出血、筋肉内出血など深部出血するのが特徴です。血小板数正常、出血時間正常ですがAPTTが高度延長または測定不能になります。血友病Aは凝固第Ⅷ因子活性が、血友病Bでは第Ⅸ因子活性が、それぞれの遺伝子変異の結果、先天的に低下または欠損する疾患です。X連鎖性遺伝で患者はほとんどが男性ですが、ごく稀に女性患者もみられます。19世紀イギリスのビクトリア女王の王子が血友病、王女が保因者で、王女が嫁いだスペイン、プロシア、ロシアの王家に病気が伝わったことからRoyal diseaseと呼ばれました。疾患頻度は血友病Aが男性1人/1万人、血友病Bは血友病Aのおおよそ5分の1です。疾患を疑った時は家族歴を注意深く聞くことも重要です。

残存凝固因子活性が1%未満の重症例に対しては、欠乏する凝固因子を定期的に補充し重症出血、特に関節内出血を予防する方法が一般的です。関節内出血は将来的に血友病性関節症のリスクを高め患者のQOLを著しく低下させることがわかっています。補充の開始時期については、関節障害の発症前の早期から開始した方が関節機能障害が少ない傾向にあるようです。軽症例では出血時や運動時に補充を行います。製剤は遺伝子組み換え型のものが感染の危険がなく安全に投与できます。

補充療法をしているにもかかわらず出血傾向の増悪がみられる場合はインヒビターの発生を疑います。インヒビターとは凝固因子に対する中和抗体で、一度陽性になると補充療法の効果が現れにくくなり出血のコントロールが難しくなります。バイパス止血療法や免疫寛容療法でインヒビターを低下させる治療が試みられています。

ちなみに後天性血友病Aは、もともと血友病ではない方に様々な病態を背景に凝固第Ⅷ因子に対するインヒビターが生じ出血傾向を呈する稀な疾患です。高齢者に多いことが報告されています。

松本歯科大学病院 小児科 塩原 正明

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