診療ノート|塩筑医師会

#35 小球性貧血のお話

【今井医院 今井 俊輔】

貧血とはヘモグロビン濃度が男子13.0g/dL以下,女子12.0g/dL以下の場合とされています。ヘモグロビンとは赤血球中にある蛋白で、組織に酸素を運ぶ役割を担っていますが、ヘモグロビンが少なくなると酸素を充分に運べないことになります。酸素不足による貧血の症状としては動悸、息切れ、易疲労感、倦怠感などですが、症状が全く無いのに検査でたまたま貧血がみつかる場合も珍しくありません。貧血が徐々に進行しヘモグロビンが正常の半分以下である6g/dlぐらいでも全く症状のない患者さんと医師が遭遇した日には、医師の方が血の気がひき、顔面蒼白、動悸出現、「どこ紹介しよか?」と途方にくれちゃったりすることもあり得ます。貧血は赤血球の大きさが小さいか、正常か、大きいかに分類すると原因を考えやすいので、それぞれ小球性、正球性、大球性貧血と名付けられています。もし貧血の指摘を受けた場合には、すかさず「私の赤血球って小さめ?ふつう?それとも大きめ?」と医師に尋ねてみましょう。
今回のテーマは貧血の中でも赤血球が小さめの貧血、小球性貧血です。
ヘモグロビンとはその名のとおりヘムとグロビン、すなわちプロトポルフィリンと鉄のキレート化合物であるヘムとグロビンから構成される赤血球のタンパク質です。下の図はヘモグロビンと小球性貧血の原因との関係を示しています1)。



小球性貧血は×が付けられたところが原因で生じます。
一番多い原因としては1)鉄が不足している場合(鉄欠乏性貧血 左上にIron deficiencyと書かれています)ですが、そのほかにも2)炎症のために鉄がうまく利用できない場合(慢性炎症に伴う貧血Anemia of inflammation) 3) プロトポルフィリン合成低下や,プロトポルフィリンへの鉄の取り込み障害などヘムの合成障害による場合=鉄芽球性貧血 Sideroblastic anemia 4)グロビンの産生障害による場合=サラセミア Thalassemia があります。

1)鉄が不足して生ずる貧血について(鉄欠乏性貧血)
わが国では20-40歳代女性のほぼ3-4人に1人は貧血がなくても鉄欠乏状態であり、4-5人に1人が貧血状態にあると推定されています。
鉄が不足する原因としては①鉄需要の増大(成長期の小児や妊娠女性など)、②鉄供給の低下(鉄摂取量不足、鉄吸収不良)③鉄喪失(月経、消化管出血、婦人科疾患など)の三つです。男性あるいは閉経後の女性では、消化管出血、特に消化管悪性腫瘍からの出血が貧血の原因のこともあります2)。また反復して鉄欠乏性貧血が生じる場合はヘリコバクター・ピロリ感染症が関係していることもあります。感染があると鉄の吸収が低下してしまいますが、除菌(ヘリコバクター・ピロリを取り除くこと)するだけで貧血は改善する場合があります3)。

2)慢性炎症に伴う貧血について
慢性炎症とは結核を含めた慢性呼吸器感染症や関節リウマチなどの膠原病などの疾患のことです。炎症があると炎症性サイトカインであるTNFやIL-6などが産生されてヘプシジンというホルモンを増加させます。ヘプシジンは主に肝臓から分泌されるホルモンで、細胞から鉄をくみ出す輸送体のフェロポルチンと結合します。フェロポルチンは細胞表面にあって肝臓や網内系に取り込まれた鉄を細胞外に放出することにより赤芽球(赤血球のもとになる核をもつ赤血球です)が鉄を利用できるよう働いているのですが、ヘプシジンがフェロポルチンと結合すると細胞外への鉄の放出が妨げられてしまい、赤芽球が鉄を利用することができなくて貧血を生じます。

3) プロトポルフィリン合成低下や,プロトポルフィリンへの鉄の取り込み障害などヘムの合成障害による貧血(鉄芽球性貧血) 
鉄芽球性貧血といわれるもので、骨髄異形成症候群の中の環状赤芽球を伴う不応性貧血、多系統の異形成と環状鉄芽球を伴う不応性血球減少症、鉛中毒、薬剤による場合などがありますが、詳しくないので割愛させていただきます。

4) グロビン産生障害による場合(サラセミア)
サラセミアとは地中海沿岸地域、アフリカ全土、東南アジアなどに多く、日本を含めて世界中どの民族にもみられるありふれた疾患です。私たちは小学校の検診で国際結婚のご両親をもつお子さん2人のサラセミアを報告させていただきました4)。国際結婚は増加傾向にあり貧血のないサラセミアの方は意外と多いのですが、サラセミア同士の方が結婚された場合には胎児死亡にいたることがあるので医師と相談されることをお勧め致します。

<鉄欠乏性貧血の治療 鉄剤について>
一日50 mgから100mgの鉄剤を内服していただきます。腹痛、吐き気、軟便、下痢などの副作用が生ずることがありますが、これらは上部小腸で鉄イオンが急激に溶け出すことにより生じます。クエン酸鉄ナトリウム(商品名フェロミア)は非徐放錠ですが、胃酸の影響を受けずに溶解するため胃切除や高齢者の方にも使用でき、私ももっぱらこのお薬を使います。鉄剤を服用すると便が黒くなりますが、鉄剤によるものですからビックリしないで下さいね。

鉄剤の「昨日の常識は今日の非常識」
・緑茶
緑茶は鉄剤と一緒に服用すると緑茶に含まれるタンニンと鉄が結合して吸収されなくなると言われていましたが、実際には鉄剤と一緒に緑茶を飲んでも鉄は充分吸収されることがわかっちゃいましたので、今ではお茶と鉄剤を一緒に飲んでも大丈夫です。
・ビタミンC
二価の鉄を保つという目的でビタミンCと鉄を一緒に服用すると鉄の吸収がよくなるといわれ、私も常にビタミンCと一緒に処方し「ついでに美人になれちゃってラッキー!
などとお話(医師用語でいうムンテラです)していましたが、現在ではむしろ胃腸障害が強くでる恐れがあり一緒に処方する必要はないというのが正解です。
・制酸剤
制酸薬(胃散などのことです)と鉄剤を併用すると鉄の吸収率を低下させるので注意しなさいといわれていましたが、一日の鉄剤投与量が食事中の鉄の10倍以上あるので併用しても治療効果に大きな影響はなく今では併用可です。

今でも「常識」な同時投与すべきでないオクスリ
テトラサイクリン系抗菌薬,セフジニル(セフゾンという名で処方されている抗菌剤です)、キノロン系抗菌薬は腸内で鉄と難溶性複合体を形成するために、双方とも吸収が低下してしまいます。併用の際には可能ならどちらかの服用を2-3時間ずらしたほうがいいでしょう。

鉄剤の注射について
副作用のためどうしても鉄剤が飲めない場合や消化管疾患のため経口鉄剤が使えない場合あるいは透析や自己血輸血における鉄補給が必要な時などに鉄剤の静脈注射が行われることがあります。
鉄剤静脈注射の副作用にはショックがあるので充分な注意が必要です。とくに初めて投与する時にはゆっくり時間をかけながら、副作用の出現に気をつけることになります。生体には鉄を体外に排出する機構がなく、一度体内に入った鉄は出血などがない限り体内に蓄積されてしまうので、ずっと鉄剤を投与し続けることはできません。また鉄剤の経口投与と静脈内投与を併用すると静脈内に投与された鉄によって消化管で粘膜ブロックとよばれる現象が生じ、消化管からの鉄吸収は阻害されるので経口鉄剤の併用投与は意味がないとされています。

参考資料
1) Thomas G DeLoughery. Microcytic Anemia. N Engl J Med 2014; 371:1324-1331
2)今日の診療プレミアムVol.23 2013医学書院: 今日の治療指針2012,2013 「鉄欠乏性貧血」からコピー&ペースト
3)特集 貧血患者へのアプローチ 日本医師会誌 2008年 第137巻・第6号
4)今井俊輔 等 学校検診を契機に見つかったサラセミアの二例 第117回中信医学会 2014

今井医院 今井 俊輔

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