診療ノート|塩筑医師会

#40 大腸がん(結腸がん、直腸がん)とがん検診

【松本歯科大学病院 内科 前島 信也】

【はじめに】
大腸は、水と電解質(ミネラル)の再吸収および、非消化食物と老廃物を排出する器官です。
高齢化や食生活などの生活習慣の変化で、近年日本では大腸がんが増え続けています。(現在、女性のがん死亡率第1位、男性で第3位、2015年には罹患率では男女とも第1位になると推定されている。 表1・2) しかし、米国では逆に大腸がん死亡率は減少傾向で、またポリープを発見し切除することで大腸がん死亡率を53%抑制できるという報告もされています1)
がん死亡率減少を目標として、大腸がんとそのがん検診について記載いたします。

表1
表2

【大腸がんの特徴】
◆散発性;大多数、病因不明で50歳以上から罹患率上昇
◆遺伝性;少数だが、50歳以下の早期発症あり
大腸癌は治癒率の高いがんで、早期発見された場合には90% は完全治癒

【大腸がんの発生】
腺腫性ポリープから(大多数を占めます);遺伝子などの変異蓄積による多段階発がん
◆その他少数;ポリープ(鋸歯状の腺管構造の変化など)や慢性炎症(潰瘍性大腸炎など)から

【大腸がんの発生と生活習慣因子・環境因子】
◆食生活;赤肉(牛・豚・羊)や加工肉(ベーコン、ハム、ソーセージ)
◆生活習慣;飲酒や肥満
◆身体的要因;高身長
◆遺伝的要因;直系の親族に家族性大腸腺腫症やリンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん家系)に罹患

【大腸がん発生と抑制因子】
◆確実な予防;運動
◆おそらく確実な予防;食物繊維、にんにく、牛乳、カルシウム

【大腸がんの臨床症状】
特に早期ではほとんどが症状なし
◆排便の変化;血便、便が細くなる、下痢と便秘を繰り返すなど
◆お腹の変化;張る、腹痛など
◆その他の変化;貧血、吐き気、体重減少など

【大腸がんの発見とがん検診】
健常者を対象に無症状ながん(早期がん)を発見して、集団においては死亡率を、個人においては死亡リスクの低下を させることが、がん検診の目的です。
特に便潜血検査による大腸がん検診は、死亡率、罹患率の減少効果が実証され、将来その成果実現が期待されています3~6)。また内視鏡検診の有効性も示されてきました7,8)

【大腸がんの発見方法】
◆便潜血法(免疫学的便潜血2日法)
◆大腸内視鏡(直腸S状結腸内視鏡、全大腸内視鏡) (図1-1)
◆大腸CT(図1-2)

図1                   図2
◆カプセル内視鏡(図2)
◆PET

【大腸がん検診における、それぞれの検査方法と問題点】
■便潜血法
排便時に指定された採取方法で、ほんのわずか便を採取して提出する方法です。
隔年検診、逐年検診とも死亡率減少効果があるが、隔年より逐年検診のほうが有効とされています。現在実施されている便潜血法では、大腸がんによる死亡減少効果としてのリスク低下が、複数の研究から46~80%と報告されています3~6)
検診は100%完全な拾い上げ検査ではないため、偽陰性は避けられません。特に便潜血陰性で自覚症状を契機に発見された癌は右側大腸に多い特徴がありますが、検診未受診群よりは予後が良好であり、この検診の大きな不利益とは考慮されていません。
むしろ偽陽性が、要精検としての不必要な内視鏡検査を発生させてしまい、各種負担を強いるために、要精検率が可能な範囲で低くできるかが課題です。

■大腸内視鏡
全大腸内視鏡は、上記の便潜血反応の陽性者に対する精密検査に用いられるごとく、大腸がんに対して極めて精度の優れた検査です。以前より安楽に安全に検査ができるようになったとはいえ、わずかですが屈曲部などの観察困難部位があることや、出血や腹痛などの合併症があり、偶発症が日本消化器内視鏡学会の調査結果では0.078%,死亡0.00082%の頻度と報告されています9)。 米国の大規模研究において、内視鏡による発見とその後のポリープ切除で、大腸がん罹患が90%減少し、その後の経過観察で大腸がんによる死亡率が、米国標準人口と比較すると約50%減少したと報告されました1)。そのほかにも、S状結腸内視鏡や全大腸内視鏡が、大腸がんの罹患率の低下だけでなく、死亡率まで低下したとの報告が複数あります。
ただし、大腸内視鏡と便潜血反応とを比較した最近の研究で、ポリープの発見率は大腸内視鏡が優るが、大腸がん発見率には差がなかったと報告されています10)

■大腸CT
CT画像を再構築した仮想内視鏡のCT colonographyは、進歩が著しく、大腸内視鏡と同等の診断能力があると報告されています11)。しかし、放射線被爆に関する不利益や、検査時の大腸への送気による吐き気や穿孔といった偶発症、偽陽性率が高いことなど、まだ検診としての実施可能性や費用対効果が検討されています。

■カプセル内視鏡 カプセルを飲み込むと、カプセルは自身の蠕動運動によって肛門まで進み、通過中の腸内を生理的に近い状態で観察できます。最大の利点は検査にともなう苦痛がほとんどないことです。しかし、検査の判定に時間がかかり、またその判定する医師が十分育成されていないこと、カプセルの通過障害などの問題やまだ費用がかかることもあり、今後の検証が必要とされています。

■PET 腫瘍細胞では糖代謝が亢進していることから、糖に半減期の短い比較的安全な放射性物質をラベルして血液に注入して、その集積から診断しますが、高額な装置と費用などのことから集団を対象とする対策型検診には利用困難です。ドックなど個人での任意型検診で行われています。

***大腸がんによる死亡をなくすために***
集団における大腸がん死亡率を減少させるための対策型検診として、便潜血法や大腸内視鏡は有効性の実証されている必須の検診です。特に男女を問わず50歳以上から、さらに家系の一員に大腸がんの罹患者がいる場合にはもっと若年から、逐年または少なくとも隔年で、是非とも簡便な便の検診を受診してください。

参考文献 1)N Engl J Med 2012 : 366 : Colonoscopic polypectomy and long-term prevention of colorectal-cancer deaths. 2)世界癌研究基金&アメリカ癌研究財団 2007:Food. Nutrition and the Prevention of Cancer : a global prospective 3)N Engl J Med 1993 : 366 : Reducing mortality from colorectal cancer by screening for fecal occult blood test. Minnesota Colon Cancer Study. 4)Lancet 1996:348: Randomised controlled trial of fecal-occult-blood screening for colorectal cancer. 5)Lancet 1996: 348: Rnadomised study of screening for colorectal cancer with fecal-occult-blood test. 6)N Engl J Med 2000 : 343: The effect of fecal occult-blood screening on the incidence of colorectal cancer. 7)Lancet 2010 : 375: Once-only flexible sigmoidoscopy screening in prevention of colorectal cancer : a multicenter rondomised controlled trial. 8)N Engl J Med 2012 : 366: Colorectal-cancer incidence and mortality with screening flexible sigmoidoscopy. 9)Gastroenterol Endosc 2010 : 52(1) : 消化器内視鏡関連の偶発症に関する第5回全国調査-2003年より2007年までの5年間 10)N Engl J Med 2012 : 366: Colonoscopy versus fecal immunochemical testing in colorectal-cancer screening. 11)N Engl J Med 2008 : 359: Accuracy of CT colonography for detection of large adenomas and cancers.

松本歯科大学病院 内科 前島 信也

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