診療ノート|塩筑医師会

#51「食事の摂り方」と食後血糖改善効果

【広仁堂医院 百瀬 篤】

食後の著しい血糖上昇が、糖尿病の発症・悪化、心血管疾患などの糖尿病の合併症の発症リスクになることはよく知られています。食後高血糖の改善にはαグルコシダーゼ阻害薬などの薬物療法があります。
しかし、投薬を開始する前に、手軽にできる方法があります。それは「食事の摂り方」の工夫です。これは日常臨床で非常に有効な方法です。以下に、その概要についてご紹介させて頂きます。

以前、私が県内各地で住民や医療関係者に行った講演会や、相澤健康センターでのドック受診者への食事療法の指導では、食事のカロリーの話はせず、「食事の摂り方」についてお話してきました。食事のカロリーの指導は、個人個人違いますし、実際、日々の食事での実践もかなり難しいものです。「食事の摂り方」の工夫は誰にでも簡単にできる方法で、「これなら私でもできる」との声を多く頂きました。

ポイント1.「ゆっくり食べる」
食事はゆっくり食べましょう。「一口で30回噛む」方法が以前から推奨されていますが、この指導をしても、男性で実施してくれる方は殆どいません。
男性には、まず「食事を食べ始めたら、最後まで箸を持ち続けていませんか?」と問いかけます。「もしそうであれば食事の途中で箸を置く習慣をつけましょう。」
食事時間が長くなることで、食後高血糖の改善が期待されます。この方法は、多くの男性が実施を約束してくれます。

ポイント2.「最初に野菜を食べる」
食事の最初に野菜を食べるようにしましょう。食事の最初に野菜を食べることは、野菜に含まれる食物繊維が小腸からの糖や脂質の吸収を抑制し、食後高血糖を改善します。毎食、この習慣をつければ、年間1000回以上、糖尿病の予防、糖尿病の悪化防止を行ったことになります。

ポイント2については、ドック受診者・講演聴講者に松花堂弁当の写真を見せて「何から箸をつけますか?」と質問すると、「ご飯から」、「好きなものから」、「肉から」との答えが多く、「野菜から」と答える方は指導開始当初は2割に満たない状態でした。
今でこそ、「ベジタブルファ-スト」がかなり知られるようになり、「まず野菜から」と答える方がかなり増えてきました。
食事の順番による食後血糖に関する研究も精力的に行われ、梶山・今井らの報告では2型糖尿病患者さん101名を対象にしたランダム化比較試験で、毎日、野菜を最初に摂取する指導法が、食品交換表を用いた従来の指導法と比較して、2年間に亘りHbA1cを良好に維持することも示されています。また、体重、血圧、血清脂質の低下も認められ、この指導方法は糖尿病予備群においても同様の効果が認められています。

ポイント3.「野菜の次は蛋白質」
最近、「食べる順番」により消化管ホルモンの分泌応答に違いがあり、特に、蛋白質や脂質を炭水化物の前に摂取するとインクレチンの分泌が増えることが明らかになりました。インクレチンは、食事をして糖などが吸収されると小腸から出てくるホルモンで、食後のインスリン分泌の約7割はインクレチンに依存しているといわれています。特にその一種であるGLP-1はグルカゴン分泌抑制や胃内容物排泄遅延を介して食後の血糖上昇を抑制するため、食事療法を実施する上で非常に重要です。矢部らによると、米飯の前に、肉や魚を食べると、先に米飯を食べた場合より食後の血糖上昇が抑えられることが明らかになりました。これは、食べる順番を変えることで、消化管からのGLP-1分泌が促進され、胃の動きが緩やかになり、胃で分解された米飯が小腸に移動して吸収されるための時間が伸びたことによります。

以上をまとめると、食事は野菜から始め、主菜(蛋白質)、最後に米飯や果物を食べることで、食後の血糖上昇が抑えられ、糖尿病の予防・治療に有効と考えられます。
この食事パターンは、まさに、和食の代表の「会席料理」と一致します。まず、食物繊維の多い先付け(前菜)に引き続き、向付(刺身)、焼き物などで蛋白質が供給され、最後に、米飯や果物が出されるパターンは食後の血糖上昇を抑えるのに理想的な食事といえます。

「食事の途中で箸を置く」「食べる順番」による食事の摂り方の指導は、糖尿病を専門としていない医療機関、管理栄養士のいない医療機関でも、医師や看護師でも容易に実施でき、また患者さんも長期に亘り実行しやすい食事療法です。是非、各医療機関で取り入れて頂ければ幸いです。


文献
1) 梶山靜夫、今井佐恵子. 食品の摂取順序と血糖値の変動. 糖尿病患者の食事と運動 考え方と進め方 中山書店 2014 ; 71-74
2) 矢部大介ほか. 食後血糖と栄養素摂取の順番. 糖尿病 2016;59:30-32

広仁堂医院 百瀬 篤

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