診療ノート

#15 プライマリ・ケア医としての臨床推論覚書

プライマリ・ケア医が診断治療する多くの疾患は文字通りcommon disease である。ところがこのごく普通の疾患から始まって、さらに高度な病院専門医療を必要とする疾患の診断につなげるためには、そのためのゲートキーパーとしての診断推論法が要求される。臨床推論の方法論は多々あると思われるが、私が参考にしているものを供覧します。

臨床推論その原則

①68歳 女性 発熱・膿性鼻汁、後鼻漏

・2週間前より、37度台の発熱、膿性鼻汁。

・既往:10年前から顕微鏡的血尿指摘あり。

・A医師「Wegener疑い」

・B医師「副鼻腔炎」

・B医師の推論は以下のうちどれか

1.Rule of few zebra

2.Sutton’s Law

3.Occam’s razor

4.Post hoc ergo propter hoc

5.Clinical pearls

②50歳 男性 リンパ節主張

・既往歴特記なし。5週間前より37度台の発熱、右側頸部リンパ節腫脹

・A医師 超音波診断で「反応性リンパ節腫大?」

・B医師診察後リンパ節生検依頼→「結核」の診断

・B医師の推論は以下のうちどれか

1.Rule of few zebra

2.Sutton’s Law

3.Occam’s razor

4.Post hoc ergo propter hoc

5.Clinical pearls

③40歳 男性 昨日から左耳が痛い

・感冒罹患後の耳痛→急性中耳炎?

・耳掃除後の耳痛→急性外耳炎?

・B医師は男性が1週間前から軽く風邪っぽい症状ありと確認あるいは男性が昨日久しぶりにしっかりと耳掃除をしたと確認した

・B医師の推論の根拠は以下のうちどれか

1.Rule of few zebra

2.Sutton’s Law

3.Occam’s razor

4.Post hoc ergo propter hoc

5.Clinical pearls

④60歳 男性 意識障害

・1週間前から頭痛、発熱、意識変容あり

・髄膜脳炎疑いで抗菌薬使用も改善せず

・診察上右下腹部自発痛、圧痛もあり

・A医師「髄膜炎+右下腹部憩室炎」

・B医師「結核性髄膜炎+回盲部腸結核」

・B医師の推論は以下のうちどれか

1.Rule of few zebra

2.Sutton’s Law

3.Occam’s razor

4.Post hoc ergo propter hoc

5.Clinical pearls

⑤58歳 男性 脱力

・大量喫煙歴あり.3週間前より脱力出現、歩行困難

・バチ状指あり.CXRで右肺野に腫瘤陰影認める

・神経伝達速度低下の情報、抗ガングリオシド抗体陽性の情報

・A医師「肺がん+ギランバレー症候群」

・B医師「肺がん+腫瘍随伴症候群」

・B医師の推論は以下のうちどれか

1.Rule of few zebra

2.Sutton’s Law

3.Occam’s razor

4.Post hoc ergo propter hoc

5.Clinical pearls

⑥75歳 女性 意識障害

・50%ブドウ糖50ml静脈注射後、

・意識完全回復

・推論は以下のうちどれか

1.Rule of few zebra

2.Sutton’s Law

3.Occam’s razor

4.Post hoc ergo propter hoc

5.Clinical pearls

解答

①=1 ひずめの音を聞いたらまずシマウマではなく馬を考えよ

②=2 銀行強盗の言葉 そこに金があるから盗むのだ、つまり「有るからとれ」

③=4 Xの直前にYがあればXの原因はYのことが多い Y→X

④=3 最も単純な説明が通常正しい

⑤=3

⑥=5 A stroke is never a stroke until it has received 50 ml of D50( 50% glucose)

臨床推論における主なバイアス

1.anchoring bias 最初に思いついた診断に固執し軌道修正できない

2.availability bias 最近診断した類似患者と同じ疾患を安易に想起する

3.confirmation bias 自分の想定診断に合わないデータを無視する

4.hassle bias 自分が最も楽に治療できるような仮説のみを考える

5.overconfidence bias 前医や病院医の意見に盲目的に従う

6.rule bias 通常は正しいルールであるが過信するとミスリードされる(誤診につながる)

【出典】

筑波大学教授 徳田安春先生 講義録