診療ノート

#25 診療所では診断がどうしても遅れる「大腸憩室症」

―抗凝固薬を使っている症例に要注意―

「大腸憩室」は、大腸壁の一部が袋状に外側に突出したものであり、筋層を欠く仮性憩室である。食物繊維の摂取量の減少や便秘による腸管内圧の上昇が発生に関与する。最近わが国でも増加しており大腸検査症例の約30~40%みられる。高齢になるほど増え、70歳以上では約50%の頻度である。(医学書院・今日の治療指針・2014 P475岡本真「大腸憩室 メッケル憩室」より引用)

当院で経験した症例を紹介します。

症例1. 73歳女性 「上腹部痛」で当院受診。胃内視鏡検査、腹部CT検査を施行したが診断がつかず、大腸内視鏡検査で横行結腸の多発性憩室症の診断であった。この症例は冠動脈にステントが入っている為、抗血栓薬、低用量アスピリンを服用中であった。「上腹部痛」を繰り返す為、低用量アスピリンを中止して経過観察中だが「上腹部痛」は未だ発症していない。「上腹部痛」発症時の血液検査で白血球数、CRP(炎症反応)が軽度上昇しており、「憩室炎」であった。

症例2. 85歳男性 「心房細動」でワルファリン服用中。「下血」「貧血」で入院し、大腸内視鏡検査施行し「大腸憩室症」の診断。以後、ワルファリンの服用を中止。貧血が改善してから低用量NOAC(新規経口凝固薬)服用中。

症例3. 83歳男性 脳梗塞後遺症で低用量アスピリン服用中「下血」し入院。大腸内視鏡検査施行し、「大腸憩室症」の診断。以後低用量アスピリンの服用を中止。シロスタゾールに変更し、現在経過観察中である。
症例4. 59歳女性 「下腹部痛」著明で(七転八倒の痛み)。急性腹症で緊急入院し、即手術となった。「大腸憩室症」の穿孔による「腹膜炎」の診断であった。

「貧血」「腹痛」「下血」の症状で発症する患者はしばしば遭遇するが、診療所ではなかなか診断が付きにくい為、大腸内視鏡検査を早急に施行する必要がある。「大腸憩室症」は、悪性疾患ではないが、症状が軽症から重症と多岐に亘る為、しばしば入院が必要となる疾患である。時には手術の場合があり必ず鑑別疾患に忘れてほしくない疾患である。
最近 超高齢化社会となり、抗凝固薬を服用中の患者が増加しているが「大腸憩室症」による「下血」「腹痛」「貧血」等の症状で抗凝固薬を減量又は中止せざるを得ない症例が増えていると思われます。

まとめとして

大腸憩室の症状は
●炎症(憩室炎)がないとき.
大半が無症状です.症状としては腸管運動異常に伴う腹痛や腹部不快感,
便通異常などがあります.
●憩室炎を合併したとき.
出血(血便),発熱,局部の腹痛などが出現します.

憩室を合併したときの主な症状あるいは状態は

●穿孔・腹膜炎(発熱,高度の腹痛を伴う)
処置が遅れると生命の危険があります.
●出血(大出血は高齢者の多発憩室に多い).
●筋層肥厚・閉塞.
●結腸周囲膿瘍.
●瘻孔形成(憩室炎からの限局的穿孔に
よって隣の臓器と交通).

日常生活での注意点は

●繊維分はなるべく多く.
●水分も無理のない範囲で十分とりましょう.
●イライラ,怒りのない生活.
●便秘や下痢をしないように,食事に
気をつけましょう.
●食事のみでうまく便通のコントロールが
できないときには,主治医に相談して内
服治療を受けましょう.
●憩室の有無を知りたいときは主治医に
相談して,大腸のX線検査を受けましょう.(最近は内視鏡検査が主流です。)

大腸憩室の治療は
●合併症のないとき.
大半は無症状なのでとくに治療を必要としませんが,症状のあるときは
便通コントロールを中心に対症療法を行ないます.左側型では食事療法
(繊維分摂取)も大切です.
●合併時(憩室炎)を伴うとき.
大半は軽症のため抗生物質の投与や点滴治療などで改善しますが,穿孔や
大出血をきたした場合には緊急手術の必要があります.また憩室炎を繰り
返すときや瘻孔ができてしまった場合も,時期をみて手術の対象となります.

南山堂『イラストによる外来患者の指導:インフォームド・コンセントを目指して』 イラスト編:五島雄一郎監修 大城戸宗男、田辺晃久編集
1-C腸・肛門瘻患  1-C-8消化管の憩室 P31を引用しました。