診療ノート

#36 腹部膨満感(膨隆)を訴え来院したとき

腹部膨隆(膨満)を訴え来院する方は結構いるわけですが、腹部膨隆の原因として腹水、鼓腸、腹腔内臓器の腫大、肥満、妊娠、精神的要因などが挙げられます。此の時の患者さんへの対応について考えてみたいと思います。

1 医療面接
“腹が張ってきた”“腹が苦しい”“最近太ってきた”などといった訴えで受診することが多いわけですが、問診では発症の時期や程度、体重変化、食欲低下、尿量変化や浮腫の有無、腹痛悪心嘔吐、呼吸困難、排便状態、肝疾患などの既往歴や妊娠の有無、薬物服用、ストレスの有無などを確認しなければ成りません。

2 身体診察
まずは検温、血圧測定や脈拍、呼吸などのバイタルサインを確認し、腹部診察は視診、聴打診、触診の順で行ない、視診は膨隆が腹部全体(鼓腸、腹水)か局所(腫瘤)か、腹壁静脈怒張(門脈圧亢進)の有無、手術瘢痕(癒着性イレウス)の有無や特に見逃してはならないのは蛙腹(仰臥位になると両側腹部の膨隆を認める)の腹水で、肝疾患(肝硬変、Budd‐Chiari症候群など)、心疾患(右心不全など)、腎疾患(ネフローゼ症候群など)、膵炎、甲状腺機能低下症、タンパク栄養障害(吸収不良症候群など)、悪性腫瘍(消化管、女性器など)、腹膜炎、外傷、手術などが原因となって背後に存在しうるからです。また貧血や黄疸、くも状血管腫、手掌紅斑、女性化乳房、頸動脈怒張、浮腫、眼球なども勿論みなければ成りません。聴診では腸雑音の状態(亢進、減弱・消失)や胸部所見もみる訳です。打診では鼓音、濁音を確認します。触診では腫瘤や肝触知、脾腫、圧痛の有無、筋性防御、波動触知、リンパ節腫大、甲状腺触知、下腿浮腫などもみる必要が有ります。

以上内科診断学的な話になってしまいましたが、何れにせよ医療面接及び身体診察で多くの場合は原因が推定されますが、可能であれば血液検査、胸腹部レントゲン検査、超音波検査などのスクリーニング検査まで行なえるとよいのですが、診療所では検査内容も限られるため①②で原因を推定したうえで、必要であれば専門機関に診察を依頼すればよいと考えます。