診療ノート

#05 ABC検診

ABC検診とは胃癌を直接見つける検診ではなく、血清ペプシノーゲン値とヘリコバクター抗体の有無で胃癌の高危険群をスクリーニングし、将来の胃がんになりやすさをA、B、C、Dの4段階に層別化する検診です。「がんを見つける検査」ではありません。胃がんになる危険度が極めて低い人たちは胃がん検診の対象から外し、危険度の高い人に重点的に精密検査をして効率を上げることが狙いだと思います。

ペプシノーゲンとは胃液中に分泌される蛋白分解酵素ペプシンの前駆体であり、ペプシノーゲンⅠ(PG I)とペプシノーゲンⅡ(PGⅡ)に大別されます1)。PGⅠは主として胃底腺の主細胞より分泌され、PGⅡは胃底腺の他に噴門腺、幽門腺、十二指腸腺に存在し、両者とも血中に存在しています1)。胃粘膜の萎縮が進むにつれ、胃底腺領域が縮小していくためPGⅠの量やPGⅠとPGⅡの比率が減少し、胃全体の萎縮の進行度を反映すると言われています1)。PGⅠ値≦70 ng/mlかつPGⅠ/Ⅱ比≦3.0が陽性とされている1)。

萎縮性胃炎が胃がんの前がん病変で、萎縮が進むほど分化型腺癌が発生しやすいため、ペプシノーゲン法で胃の萎縮の進行している人、すなわち胃がん高危険群をスクリーニングできます1)。
Helicobactor pylori (H.pylori,ピロリ菌) が胃粘膜に感染すると好中球浸潤を伴う慢性活動性胃炎が惹起され、その後慢性萎縮性胃炎を呈するようになります。この慢性胃炎を背景として胃癌を引き起こすと考えられています。ABC検診では、ピロリ菌の感染診断を血清抗体価を調べることで行い、胃がん高危険群を絞り込みます。

<分類>

A群:PG(-)Hp(-)

B群:PG(-)Hp(+)

C群:PG(+)Hp(+)

D群:PG(+)Hp(-)

※ D群はC群と区別せずC群[PG(+)]としても可。

<胃がん発生リスク2)>

A群:健康な胃粘膜で胃疾患の危険性は低い。

B群:消化性潰瘍などに注意する。

C群:胃癌、胃腺腫、過形成ポリープなど胃粘膜萎縮を発生母地とする疾患の高危険群。

D群:高度に萎縮の進んだ最も胃癌リスクの高いグループ。

胃がん発生リスク:A群<B群<C群<D群2)

ハザード比 A:B:C:D = 1 : 9.8 : 19.6 : 120.4 2)

<推奨される内視鏡検査による精査の間隔2)>

A群:内視鏡検査による精査の対象から外す。

B群:3年に1回。

C群:2年に1回。

D群:毎年。

<ペプシノーゲン法の問題点2)>

・ 胃粘膜萎縮と関係なく発症する未分化型腺癌や、進行癌が見逃されやすい。

・ 胃酸分泌抑制薬、特にプロトンポンプ阻害薬を服用によりペプシノーゲン値が高くなり、陰性に出る場合がある。

・ 胃切除術後はペプシノーゲン値が低く、陽性に出る場合がある。

・ 腎不全の人は、ペプシノーゲン値が高く、陰性に出る場合がある。

・ ピロリ菌の除菌後の人(E群)は、誤ってA群と判定されてしまうことがある。PGⅠ、PGⅡ値ともに低い症例は除菌後ではないかと疑ってみる必要がある。

【出典】

1)http://www.asahi-net.or.jp/~ry3k-ksk/newpage8.htm
2)胃がんリスク検診(ABC検診)マニュアル 胃がん撲滅のための手引き,NPO法人日本胃がん予知・診断・治療研究機構編,南山堂.