診療ノート

#41 外リンパ痩

はじめに

内耳が原因となるめまいの中で、一番多いものは良性発作性頭位眩暈症です。その他メニエール病や前庭神経炎といっためまいもよく知られております。しかし外リンパ瘻となると、耳鼻科医以外はあまりなじみがないかもしれません。この疾患は内耳の外リンパ腔と中耳の間に瘻孔が生じることによって、めまい、耳鳴、難聴などを生じる疾患です。

外リンパ瘻のカテゴリー分類

外リンパ瘻の発症は誘因により、日本では表1のように4つのカテゴリーに分類されております。カテゴリー1は国際的に認められている誘因ですが、カテゴリー2~4は国によって様々な見解があるようです。

1には、外傷や真珠種性中耳炎などの疾患や耳の手術など医原性のものもあります。耳かきで鼓膜をやぶって耳小骨にまで到達したあとに、難聴とめまいが発症する症例を時々臨床で経験することがあります。

2は、外から圧がかかることによるものです。ダイビング、飛行機に乗る、高気圧酸素治療などが誘因となります。3は、体の中から圧がかかることによるもの、くしゃみ、咳、強く鼻をかむ、いきみ、呼気を使う楽器の演奏、重い荷物の運搬などが誘因になります。強く鼻をかんだ直後から耳が聞こえなくなって耳鳴とめまいが発症した症例や、ゴルフの練習でいきんだ後に難聴とめまいが出現して耳鼻科を受診された患者様がおりました。

表1 外リンパ瘻のカテゴリー分類
カテゴリー1外傷、中耳・内耳疾患(真珠腫、腫瘍、奇形、半規管裂隙など)、中耳・内耳手術など
カテゴリー2外因性の圧外傷、すなわち、爆風、ダイビング、飛行機搭乗など(antecedent events of external origin)
カテゴリー3内因性の誘因、すなわち、はなかみ、くしゃみ、重量物運搬、力みなど (antecedent events of internal origin)
カテゴリー4明らかな原因、誘因がないもの(idiopathic)

症状

難聴は50~80%にみられ突然発症しますが、その後の経過は聴力が変動するもの、悪化するもの、変動しながら悪化するものがあります。発症時にパチッなどという膜が破れる音(POP音)を伴うこともあり、耳鳴、耳閉感、聴覚過敏などの症状も伴うことがあります。典型的な耳鳴は「水の流れるような音」ですがそうでない場合も多いようです。
めまいは、回転性めまい、頭位変換時のめまい、慢性の浮動性のふらつきなど様々です。

めまいも難聴とほぼ同じ頻度で発症します。患側下で眼振やめまい感が増強する場合が多くみられます。瘻孔検査というのは外耳道よりの加圧減圧で、眼振が出現したりめまいが悪化したりするかをみる検査です。その陽性率は2割程度ですが、陽性であれば外リンパ瘻の可能性は高いとされております。

診断

上記の臨床症状のみを認める場合は疑い例とします。確定診断には、以前は試験的鼓室開放か内視鏡によって、外リンパの漏出を確認する必要がありました。鼓室開放術は侵襲的であるため、その施行がためらわれる場合もあります。また実際に手術を行っても外リンパの漏出が微量であることなどから、確認できず診断が確定しない症例もありました。しかし2016年改訂の診断基準では、臨床症状がありさらに中耳から外リンパ特異的蛋白が検出できれば、確実例とすることが示されました。外リンパ特異的蛋白であるcochlin-tomoprotein (CTP)は、外リンパ漏出の生化学的診断マーカーであり、これを中耳洗浄液から検出することによって、試験的に鼓室を開放しなくても確定診断が可能となりました。ただしこの検査は特異度が高く、陽性であればほぼ確実に外リンパ瘻と診断されますが、陰性の場合でも外リンパ瘻が完全に否定されるものではないことに注意が必要です。

治療

カテゴリー1では、原因に対応した治療を行います。真珠腫性中耳炎では中耳の手術を行い真珠腫摘出後、術中に側頭筋膜や骨パテなどを用いて外リンパの漏れを停止させます。耳掻きなどによる外傷は、CTでアブミ骨の偏位などが認められれば、アブミ骨手術や内耳窓閉鎖術を行います。

カテゴリー2~4ではまず保存的治療を試みますが、聴力の改善がみられないまたは悪化する場合や、めまいが増悪する場合には手術に切り替えます。保存的治療は瘻孔の自然治癒を期待して、ベッド上での安静が重要です。頭蓋内圧の影響を抑えるため、ベッドをギャッジアップした約30度のセミファーラー位をとり、患側を上にして休んでもらいます。安静期間は1週間程度を目安としております。その間は、鼻をかむことや、強い咳をすること、トイレなどで力むことなどはしないように指示します。難聴に対してはステロイドを点滴で投与します。

内耳窓閉鎖術は、中耳を開放して外リンパの漏出部を軟骨膜や側頭筋膜で被覆し、瘻孔閉鎖を行う手術です。閉鎖部の固定には、フィブリン接着剤の使用が有効です。外リンパの漏れは、1か所だけとは限らないので漏れている可能性のある前庭窓・蝸牛窓ともに瘻孔閉鎖のための組織充填を行ったほうがよいといわれております。

おわりに

外リンパ瘻の診断・治療は国によって方針が大きく異なっております。日本では臨床研究が進んでおり外リンパ瘻の診断基準を発表しておりますが、諸外国からのものは現在のところありません。アブミ骨への直達外傷は世界的には稀な外傷ですが、日本では耳掻きの習慣があるため数多く報告されております。とくに耳掻きしている最中にお子様がぶつかって発症した患者さんを何人か経験しておりますので、注意が必要です。
またダイビングによるものでは、日本の休日が短い事も関係しております。日本人ダイバーは過密な日程で反復潜水をおこなっており、体調不良であっても無理をすることが多いと思われます。うまく耳抜きが出来なくても潜水を続けるため、外リンパ瘻を発症することがあります。当たり前の事ですが、風邪をひいた時にはダイビングをしないようにお願いしたいと思います。