診療ノート

#46 足(下肢)のむくみ(浮腫)について

血管外科では主に足(下肢)の動脈、静脈の病気の治療を行っております。閉塞性動脈硬化症(動脈の血流障害)や下肢静脈瘤・深部静脈血栓症などが主な病気ですが中には足のむくみを訴えて来院される方が意外と多くいらっしゃいます。

始めにむくみ(浮腫)の原因について説明します。

1) まず、足の腫れ「はれ」:(腫脹)とむくみ:(浮腫)の違いは?

「腫れ」は以前に比べあるいは反対側の足より太い状態で、目で見て判断できます。腫れの原因は外傷(打撲・ねん挫・骨折)などによる組織内出血や非外傷性のむくみ(浮腫)などがあり、腫れの原因の一つがむくみ(浮腫)です。むくみ(浮腫)とは、医学的には「組織間隙に水分(間質液)が過剰に貯留した状態」と定義します。日常的判断としては皮下の静脈が見えなくなり、皮膚を摘まみ上げにくくなり、皮膚のしわが消えたり、指で足を強く圧迫すると指の痕(へこみ)が残るなどで判断できます。

2) では下肢に浮腫をおこす原因は以下に示した通りです。

1.全身的な原因でおこる浮腫は

内臓疾患では
心臓  うっ血性心不全
腎臓  急性、慢性腎炎 ネフローゼ症候群
肝臓  肝硬変

内分泌疾患では
甲状腺、副腎機能亢進症、低下症

栄養障害では
飢餓、癌

薬剤性では
鎮痛剤、ステロイド、ホルモン剤

などが考えられます。この場合の浮腫はほぼ両下肢にほぼ同程度の浮腫が発症しさらに下肢以外の部分にも(顔など)浮腫が見られることもあります。

2.局所的な原因(下肢に直接原因がある場合)としては

アレルギー、感染(寄生虫フィラリア)、熱傷(やけど)、虫刺され、外傷(けが)、炎症などが直接原因となります。
またリンパ性の浮腫としては先天的リンパ障害(一次性リンパ浮腫)や、癌のリンパ節転移・骨盤内臓手術後・放射線照射治療後など続発性リンパ浮腫があります。がん患者さんの増加とともにリンパ浮腫も増加しています。
静脈性浮腫は下肢静脈瘤、静脈炎、深部静脈血栓症(エコノミー症候群)に伴う静脈うっ血が原因となります。局所的原因で起こる浮腫は通常病変のない対側の足にはむくみはなく正常です。

3.その他 長時間の起立(立ち仕事)や高齢者の寝たきり状態、不動症候群

最近では高齢の方が活動能力の低下により自宅あるいは老健施設などで、一日中いす(車いす)に座り過ごしていることにより足(特に下腿、足部)にむくみ(浮腫)が出現したとのことで受診される場合が多くなりました。この場合も両側に同程度のむくみをきたします。
以上の様にいろいろな原因で浮腫がおこります。ですから治療するにあたりまずは浮腫の原因を考える必要があります。原因によって治療法を選択しなければなりません。

次に治療について説明します。(治療としての圧迫療法について)

局所的な原因(下肢に直接原因がある場合)の場合(アレルギー、感染、熱傷(やけど)、虫刺され、外傷(けが)、炎症(静脈炎)など)は原因が 治癒すればむくみも自然軽快することが多いです。
次にむくみ(浮腫)を起こす全身的な内臓疾患であるうっ血性心不全、急性・慢性腎炎、ネフローゼ症候群、腎不全、肝硬変、甲状腺、副腎機能亢進症・低下症などが原因である場合は病気の治療が優先されます。利尿薬の内服がむくみの軽快に役立つことが期待できます。

栄養障害(飢餓、癌など)に対しては栄養管理が必要です。
鎮痛剤、ステロイド、ホルモン剤など薬剤による副作用が原因と考えられる場合はただちに中止し経過をみます。
下肢静脈瘤では硬化療法や手術(レーザー)治療、深部静脈血栓症(エコノミー症候群)では抗凝固療法(血栓を溶かす薬の内服)を行うと同時に弾性包帯や弾性ストッキングの着用による圧迫療法を行います。一般に利尿薬は使用しません。リンパ性の浮腫でも圧迫療法を行います。内蔵疾患でも圧迫療法を併用することでむくみを軽減することができます。
その他、長時間の起立(立ち仕事)や高齢者で一日中いす(車いす)に座り過ごしていることによる(特に下腿、足部)むくみ(浮腫)の場合も薬の治療ではなく圧迫療法が有効です。

外来でよく患者さんから「むくんでいる足にきつい靴下を履くのはよくないのでは?」と聞かれることがありますが、正しい履き方をすることが大事と説明します。すねや太ももを部分的にきつく圧迫する運動用サポーターは場合によっては害があります。足全体を包むように包帯を巻くか弾性ストッキングを着用します。しかし包帯は強過ぎず・弱過ぎずに巻くのに工夫が要りますし途中で緩んでしまうため管理が難しいです。握力のない高齢者のかたではストッキングを自分で履けないという難点もあります。最近では筒状になった圧迫包帯も使用できるようになり簡便で高齢者でも使用できるようになりました。

以上、むくみの原因治療とともに包帯・ストッキング・筒状包帯を上手に使い分けてむくみの治療(予防)を行なってみては如何でしょうか。