診療ノート

#34 前立腺がんについて~PSAを中心に~

①PSA検診のおすすめ
高齢男性における前立腺がんの罹患率が高いことは医療関係者のみならず広く知られています。国立がん研究センター発表の「2015年男性がん患者数予測」では前立腺がんが1位、胃がんが2位、肺がんが3位となっています。女性では乳がんが1位です。(図1)

PSA(Prostate Specific Antigen:前立腺特異抗原)が前立腺がんの腫瘍マーカーであることは十分浸透しています。PSAは前立腺で分泌されるタンパクで正常の前立腺からも分泌されますが、がん細胞はもろいため、こわれたがん細胞から漏れ出たPSAが血液中に出てきます。また、がんの進行に伴って病巣が大きくなると漏れ出るPSAも多くなります。
2011年にアメリカでPSA検診ががんの死亡率低下に貢献しているか疑問があるとの発表がなされました。そのことをきっかけに日本でもPSA検診の有用性について再検討がなされました。日本での結論は、PSA検診は前立腺がんの死亡率低下に貢献し、QOLの観点からも有用であるということでした。アメリカでPSA検診の有用性についての議論が起こったのは、50歳以上の男性の75%以上が何らかの期会にPSAを最低1回は測定されており、あえてPSA検診を行わなくても普及していることがあげられます。日本ではまだPSA検診の普及率は低く、PSA検診の曝露率が5%以下の市町村では、発見された前立腺がんの30%がすでに転移した状態です。
しかし、昨今の医療財政難の影響で、腫瘍マーカーはオプション項目になっていますのでぜひ選択していただくことをお勧めします。
それでは、PSAが異常値であった場合についてです。PSAが4.0ng/ml以上であった場合に異常値と判定されます。この場合、次に行われるべき検査はMRI(核磁気共鳴画像法)です。MRIでがんが疑われなければ経過観察(3~4か月毎のPSA測定)となります。がんが疑われれば、前立腺生検が施行されます。PSAの数値によって生検による前立腺がんの発見率が報告されています。ただし,PSA 4.0~10.0ng/mlはグレーゾーンと呼ばれることもあり、十分な監視で経過観察となることもあります(図2)

前立腺生検でがん検出されれば、転移の有無を調べたうえでステージ(病期)を決定して、適切な治療法を決めることになります。

②万全ではないPSA
PSAは腫瘍マーカーのなかでも臓器特異性(特定のがんに対しての反応性)、感度(陽性率)が特に優れています。しかし、PSAが正常な前立腺がんが2通りあります。
・ひとつ目は初期の前立腺がんです。
検診で次のような経過の方がいます。

いずれも基準値の4.0ng/ml以下ですので異常なしの判定になります。Aさんは高めですが安定しており、Bさんは数値が低いものの毎年確実に上昇しています。Bさんは前立腺がんが疑わしいのです。
・ふたつ目はPSAが上昇しないタイプの前立腺がんです。低分化がんといわれるもので、悪性度が高いほどPSAは上昇しません。PSAが10.0ng/ml以下のグレーゾーンで生検をして がんが見つかっても、すでに全身骨転移があったという例を時々経験します。また、前立腺がんに対して手術、放射線照射、内分泌治療等のいずれかの治療後に局所再発あるいは転移を生じた場合に初期治療の際とがんの性格が異なることもあることが知られています。つまり、初期治療の際はPSAが有用であったにもかかわらず、再発や転移の際にはPSAが上昇しないことがあるということです。また、より悪性度が高い前立腺肉腫ではPSAは正常です。
それでは、どうしたらいいのでしょうか。
PSAが発見される前から行われていた直腸診(肛門から指を入れて腸の壁越しに前立腺表面を触る)やMRI 、CT(コンピューター断層撮影法)、超音波検査で判断します。すなわち,さまざまな検査を総合して判断するということです。
① PSA検診のおすすめ、②万全ではないPSA ということから、まずはPSA検診をして結果の解釈、最終判定は泌尿器科専門医が行うということがいいのではないかと考えます。前立腺がんは罹患率が高い反面、5年生存率が最も高いがんと言われています。これは早期発見が進んで治癒している患者さんが多いこと、治癒しないまでも長期生存が望める治療法が確立していることが理由です。恐れることなく気軽に相談されることをお勧めします。