診療ノート

#10 耳管開放症

耳管開放症と聞いて他科の先生方はあまりなじみがないと感じたのではないでしょうか?以前は稀な病態とされていましたが、研究が進むにつれ、近頃では日常診療でよく遭遇する疾患と知られるようになってきました。そこで、今回この疾患を取り上げてみることにします。

A どんな病気ですか?
耳管は通常閉鎖しており、中耳の圧が変化した時など必要に応じて開き、速やかに閉じます。その耳管が開いたままになった状態が耳管開放症です。
(逆に開大機能が障害されたのが、いわゆる耳管狭窄症です。)

B 症状
1)耳閉感
耳がふさがった感じ、ボーっとした感じ、高い山に登った感じ、トンネルの中の入った感じなどと表現されます。耳管狭窄症などでも同様の症状が見られますが唾を飲み込んだり、耳抜きをしても治りません。
2)自己呼吸音聴取
呼吸音が耳に響く、息の音が聞こえる、呼吸にあわせて鼓膜がぼこぼこすると訴えます。
3)自声強調
自分の声が響く、エコーかかって自分の声でないように聞こえる。
4)そのほか耳鳴、難聴、めまい、ふらつきを訴える人もいます。

C 増悪因子、軽快因子
体位や頭位、動作が症状の出現に大きな影響を与えます。
1)増悪因子
立位、運動、大声を出す、鼻をかむなどの行為は症状を誘発または増悪させる因子となります。
また妊娠・出産、ダイエットなど急激な体重減少は大きな誘因・増悪因子です。
2)軽快因子
臥位、前かがみや頭を下げる動作、鼻すすり、頸部の圧迫は症状を軽快させる因子になります。

D 検査所見
1)鼓膜所見
異常を認めないことが多いですが、凹んで見えたり、呼吸に伴い鼓膜が動揺する所見が得られたりする場合もあります。
2)聴診
オトスコープ(患者の耳と医師の耳をつなぐ聴診チューブ)を介して患者の呼吸音を聴取できることがあります。
3)聴力検査
難聴を訴えている場合低音域の伝音難聴をしめすこともありますが、正常のことも多いです。
4)ティンパノメトリー
正常なことが多いですが、B型、C型を示すこともあります。
5)その他、耳管機能検査、座位CT検査、MRIなどの検査も有用ですが診療所レベルではなかなか実施できません。

E 診断
正直診断は難しい場合もあります。症状のひどくない時は、あまり所見もなく症状から耳管狭窄症と診断してしまっていることもあると思います。まずは耳管開放症を疑い、体位や頭位で症状が変動しないか、急激な体重変化がないかなど十分に問診すること、呼吸に伴う鼓膜の動揺がないかなどの特徴的な所見がないか充分観察することが大切だと思います。

F治療
積極的に治療している施設は少なく、確立された治療はないといってもよいと思いますが、漢方薬(加味帰脾湯)の内服、生理食塩水の点鼻療法、鼻腔から耳管への薬物噴霧・注入、また、耳管ピン挿入術など外科的な治療も試みられています。