診療ノート

#07 マイコプラズマ

こんにちは。おそらくこれを読もうかなと思っているあなたは、家族がマイコプラズマ肺炎にかかったりして詳しく知りたいと考えているのではないでしょうか?日頃診察室で話し足りないことを専門家の意見を交えて書きたいと思います。

マイコプラズマ肺炎は、オリンピック開催年に流行すると言われてきましたが、ここ十数年そういう傾向がなくなって、秋から冬にかけて流行してきました。2011年から大流行がはじまり、2012年はさらに流行が拡大しています。5才から30才、特に9才以下に好発し、3才以下の乳幼児、65才以上の高齢者での発症はまれですが、平成23年、天皇陛下も感染されました。主な症状は発熱、痰のからまない、から咳です。感染経路はインフルエンザと同じせき、くしゃみによる飛沫感染です。感染してから発症するまでの期間、すなわち潜伏期間は1から2週間です。

マイコプラズマは、無細胞培養地に生え、自己増殖能力をもつ最小の微生物です。ウイルスは生きた細胞がないと増殖できません。マイコプラズマはインフルエンザとちがってウイルスではなく最小の細菌です。合併症として中枢神経の障害が知られています。例えば髄膜炎、脳炎、ギランバレー症候群などがあります。発生機序は、マイコプラズマの成分により抗体が産生され、それが神経組織と反応するという自己免疫またはアレルギー説があります。早めの治療が大切です。

治療はマクロライド系の抗生物質です。クラリス、ジスロマックの名前は聞いたことがあると思います。しかし、最近マクロライドに耐性のマイコプラズマが増えて問題になっています。日本において耐性率の多さが流行の原因とされがちですが、マイコプラズマの耐性菌がほとんどないヨーロッパで2010年から2011年にかけてマイコプラズマが大流行しました。耐性菌の多さだけでは大流行の説明にはなりません。インフルエンザのようにマイコプラズマの変異がおきたのかもしれません。マイコプラズマの耐性化が重症化につながるわけではありませ

ん。細菌学的耐性と臨床的耐性は同じではありません。数年前ソ連A型インフルエンザが流行した時、タミフルは検査上耐性でしたが、臨床的には有効でした。マクロライド系抗生物質は抗菌作用以外にも免疫学的なよい作用があり、まず使われるべき第一選択薬剤です。効果不十分な場合があり、高用量の投与が勧められています。4日間使用しても効果が得られない場
合耐性菌感染を疑い、オゼックス等のキノロン系やミノマイシン等のテトラサイクリン系を考えます。

遅ればせながら診断です。マイコプラズマの培養は大変難しいです。培養できますが一般臨床の現場ではあまり使われません。そこで血液検査で血中の抗体価を測定しています。直接凝集法(PA法)や補体結合法(CF法)があります。これはIg Gを見ています。Ig G抗体が上がってくるには早くても2週間かかります。症状が出て2~3日では抗体はまだ上がっていません。そこで比較的速く抗体が上がるIg M抗体を測定するイムノカード法があります。イムノカード法ではマイコプラズマではない健常者の成人でも約30%に陽性例があると言われています。マイコプラズマ肺炎と診断された症例のうち3分の1しかイムノカード法では陽性にならないともいわれ、実地現場での有用性は低いといわれています。

入院した患者さんにはCTは有用です。しかし初期の患者さん全員にCT 検査を行うのは無理ですし、被爆の問題もあります。
現在有用と考えられているのが、臨床的鑑別法です。
1. 60才未満である。
2. 肺に基礎疾患がない、つまり大きな肺の病気がない。
3. がんこな咳がある。
4. 聴診器で大きな異常音が聞こえない。
5. 痰がない。
この5項目のうち3つ以上あればマイコプラズマを疑います。

から咳つまり痰のからまない咳が出ていたら、かかりつけ医にご相談ください。成人は発熱しない場合が多く、大したことがないと思っていても、マイコプラズマに感染していて、周囲に撒き散らしていることが多く、動く感染症と言われています。
何年か前にSARS が発生した記憶があると思います。人類はSARS の治療法を見つけられませんでしたが、隔離によってSARS を撲滅できました。感染症の治療の原則は感染した人との接触を避けることであり、治療があるなら早期治療であることは言うまでもありません。