診療ノート

#02 多焦点眼内レンズの現況について

多焦点眼内レンズは、遠見、近見2つの焦点を持つ眼内レンズで、遠見裸眼視力のみではなく、近見裸眼視力も改善されるため、眼鏡を装用することが少なくなる(あるいは不要になる)眼内レンズである。簡単に言えば、老視の治療もできる眼内レンズである。

多焦点眼内レンズの初めての臨床成績は1987年に発表されているが、当時は水晶体超音波乳化吸引術が普及していなかったこともあり、良好な結果は得られていなかった。

現在使用されている多焦点眼内レンズの国内承認は2007年以降であり、本邦でも緩やかに普及しつつある。

ピント

多焦点眼内レンズのデザイン

現在主に用いられている回折型眼内レンズは、光学部に複数の回折リングをもち、光線を回折しない光(遠用)と1次回折光(近用)に分けることによって、遠方と近方の2つに焦点を合わせている。屈折型と呼ばれる別のデザインの眼内レンズもあるが、現在は使われることが少ない。

レンズ

多焦点眼内レンズの問題点

夜間の照明を見たときに光がにじんで見えたり、光の周りに輪が見えたりする現象が起こる場合があり、グレア、ハローと呼ばれる。また単焦点眼内レンズと比較して、コントラスト感度の低下は避けられない。

適応と使用状況

多焦点眼内レンズは老視も矯正する画期的な眼内レンズであるが、特性や問題点を十分説明し、患者さんに選択して頂く必要がある。ただし、角膜乱視の強い方、80歳以上の高齢者には良好な視力が得られない場合があるため、積極的に勧められない。現在国際的には多焦点眼内レンズの使用は増加傾向で、白内障手術患者さんの5-7%が使用していると推測されている。本邦では、2011年で白内障手術患者さんの0.6%程度に使用されているとの調査がある。

多焦点眼内レンズ手術は健康保険が適応されず、自費診療か先進医療のどちらかで患者さんが医療費を負担することになる。先進医療の認可を受けている医療機関は現在214施設であるが、長野県内では当院を含めて3施設と少ない。米国では8割以上の眼科医が老視矯正用眼内レンズ(多焦点眼内レンズまたは調節眼内レンズ*)を使用している。

*調節眼内レンズ

毛様体筋の緊張で光学部の位置を前方に移動させ、近見視力を得る眼内レンズ。光学部が1枚のものと、2枚のものがある。日本では承認された製品はない。