診療ノート

#03 補聴器

私は大学病院時代、難聴と補聴器を専門としていました。

開業後の現在も補聴器外来を開設し難聴患者さんのお役に立てるようしています。今回、多くの会員の皆さまには縁遠いお話かもしれませんが、補聴器についてよく質問を受けますのでそのいくつかについてQ&Aにてお答えしたいと思います。

まずは難聴の型についてお話ししておかなければなりません。

聞こえは人により千差万別です。

年をとって難聴になったといっても老人性難聴の型ばかりではありません。難聴は大きく分けても上図のように多種にわたり、各型に当てはまっても程度はまちまち、ですから補聴器も各個に調整が要ることがお解りいただけるのではないでしょうか。

補聴器はどんな人が適応なの?
軽度の難聴でも「聞こえにくい」と感じる方は適応があります。逆にそれなりの難聴があったとしても日常生活上支障なく過ごせているようなら適応はありません。 「もっと聞こえればなあ」と思うことはありませんか?聞こえないからといって周りとのコミュニケーションを避けていませんか?自分は困っていなくとも家族があなたとの会話に困っていませんか? そんな方、適応がありますよ。
補聴器はどんな形がいいの?
補聴器は見た目の形として耳に掛けるタイプ(耳掛け型)、耳に入れるタイプ(挿耳型)と大きく2つのタイプがあります。両者を比較すると耳掛け型の長所は大きい音を出せる、スイッチの操作や電池交換がし易い、電池が長持ちする、”ピー”という補聴器特有の音(ハウリング)が出にくいなどが挙げられます。挿耳型の長所はメガネの付け外し時に干渉しない、汗っかきの人でも汗での故障がしにくい、補聴器の装用をしながらの電話がし易い、などでしょうか。

見た目の形以外には近年オープン型という補聴器が出てきています。今まで補聴器というと耳の穴に隙間なく入れるものでした。隙間があると”ピー”っというハウリングが出てしまうからです。しかし隙間がないと耳に栓をしたような感じになり、自分の声が響く、補聴器をつけた状態で食事をすると噛む音が頭に響く、装用感が煩わしいなどの問題がありました。このオープン型の補聴器はハウリングを抑える新しい機能を有するため、穴のあいた耳栓を使うことができ、上記の違和感をなくすことができます。

新聞広告等の補聴器はダメなの?
広告等でよく売られている補聴器や集音器は音の調整が細かくできないものがほとんどです。前述の通り難聴の型や程度は人それぞれまちまちです。これらは一般的な老人性難聴に合わせた特性となっていると思われます。よって中にはうまく合う人もいますが多くの人の聴力にはフィットせず、また調整もできないので使い物にならないことが多いのです。

耳鼻咽喉科で診察を受け、専門店で購入されることをお勧めします。

補聴器は雑音がうるさいというが?
はい、補聴器は音を大きく増幅して聞かせる器機なのでそれまで静かな世界にいた難聴の方にとってはうるさく感じられるかもしれません。ただ最近では人の声など抑揚のある音以外の音はあまり増幅しない、もしくは抑制する補聴器や突発的な音などは大きくしない補聴器など雑音対策をしたものも多く出てきています。
補聴器をすると耳が悪くなるのでは?
いいえ、適正にフィッティングされた補聴器であれば難聴の悪化はありません。ただしきちんとフィッティングせず過剰に音の出る補聴器では騒音性の聴力悪化をきたすことがあります。

またlate-onset auditory deprivationということばがあります。これは聴力の廃用性の悪化という意味で、両側難聴があり補聴器を片耳に装用していた場合、装用していた耳よりも装用していなかった耳の方が聞こえが悪化したというデータからできたことばです。このことから耳の遠い、聞こえない状態でいるよりも、補聴器などで音の刺激を入れていたほうが聞こえが保たれる可能性があるわけです。

補聴器は両耳につけたほうがいいの?
はい、補聴をするという観点では両耳の方がいいといえます。
両耳で聞いた方が音声情報が片耳のときの倍入りますし、音源の方向を選びません。また音の方向感を感じることもできます。ただ元々聞こえに左右差がある方や両耳に補聴器を入れている感覚(装用感)が苦手な方、金銭的な都合で二つの補聴器はできない方など個々の事情によっては両耳装用が絶対ではありません。
補聴器はずっとつけていなきゃいけないの?
いいえ、必要な場面でのみ装用(場面装用)で構いません。ただし補聴器の試聴期間は音を聞いて試すため、慣れるためにも装用時間を長めにしていただいた方が良いです。
補聴器の価格は? 高いものと安いものとの違いは?
補聴器は高額です。多くの方が購入に至る補聴器は片耳でだいたい10~20万円のものが多い印象です。高いものと安いもの、何が違うかザックリいうと調整できるチャンネル数が違います。例えば250Hzから8000Hzまでの周波数を補聴器で調整しているとして高音、中音、低音の3つのチャンネルで調整するよりもさらに多くのチャンネルで調整した方がより細やかで個々の聴力に合わせやすくなるのです。その他には雑音抑制の性能が違ったり、指向性(聞きたい音の方向性を任意で指定する)の機能の有無などが変わってきます。
補聴器は保険がきくの?
いいえ、補聴器をつけていくため耳鼻科で行う診察や検査は保険適応ですが補聴器自体は保険適応外です。また通常、補聴器の医療費控除も認められません。

特例として高度~重度難聴で身体障害者手帳をお持ちの方は等級により補聴器購入の補助金が適応となります。

補聴器はどこで買うのがいいの?
補聴器専門店、耳鼻咽喉科の補聴器外来など。また認定補聴器技能者がいるところが望ましいです。

お店の要件としては、購入時はしっかり試聴期間を設けてくれること。いろんな器種を試させてくれること。購入後も定期的に再調整、そうじなどしてくれること。装用者の都合で来店できるよう店舗をもつ販売店であることなどでしょうか。

補聴器を購入するまでの期間は?
2~3カ月の試聴期間の後、購入される方が多い印象があります。
よく眼鏡と比較して話すことがありますが同じ聴力であっても補聴器では眼鏡よりも調整の仕方にバラエティがあるのでその人その人に合う味付けにするのに時間がかかるのです。
補聴器購入後のメンテナンスは? 電池は?
補聴器は精密機器です、使っているうちに耳垢などがつまってしまったりすることもあるので掃除など定期的にメンテナンスをしてもらう必要があります。また耳の聞こえが変わってきたり、補聴器の音に慣れてくると補聴器のフィッティングを変えたくなってきたりもします。長くとも3~6ヶ月に一度はメンテナンスを受けましょう。メンテナンスは交換が必要な部品などがないかぎり無償で受けられることがほとんどです。

補聴器はボタン型の空気電池で作動します。補聴器の使用頻度や電池の大きさ、季節などにもよりますが電池交換はおおよそ一週間に1回程度必要になります。電池は補聴器販売店のほか、多くの家電量販店で購入可能で6個1シートで1000円程度です。

補聴器はどれくらいもつものなの?
一般的には5~6年といわれています。補聴器の使用状況にもよるので大切に使われて10年以上ももっている方もおられます。
すでに補聴器を持っているがうまく聞けない
耳鼻咽喉科で耳自体に異常はないか、聴力はどうかを診てもらってください。そのうえで補聴器を購入した販売店等で補聴器の故障はないか、フィッティングが適切かなど再調整をしてもらってください。

それでも良く聞けないという場合、お手持ちの補聴器の限界かもしれません。

補聴器は音を増幅し、その耳にとって一番聞きやすい音の大きさにすることはできます。しかしその先、音が頭に伝わって言葉として認識される、というところには現状の補聴器では介入できません。よって聞こえの中枢が悪くなってきた方にはいくら高い補聴器であっても、「完全な耳の代用」とはならないのです。