診療ノート

#39 急性低音障害型感音難聴

急性低音障害型感音難聴とは、ある日突然低音の音が聴こえにくくなるという内耳の蝸牛(かぎゅう)に異常が生じる原因不明の急性感音難聴の一つの疾患です。
女性にやや多く、最近増えており再発の多い疾患です。

(症状)
・突然、耳に何かが詰まっている感じ(耳閉感)
・低音の耳鳴
・低音が聴きにくい
・音が響きすぎる
・一側性である
・めまいを伴わない
このとき聴力検査では低音域周波数(125Hz、250Hz、500Hz)の聴こえが悪くなっています。難聴の程度は軽いことが多いです。

(何が起こっているのでしょうか?)
内耳にて内リンパ水腫がおこり(内耳の内リンパ腔に水ぶくれのようにリンパ液が溜まってしまう)特に低音が聴こえにくくなる障害がおきるという説が考えられています。これはメニエール病と同じ病態ですから、急性低音障害型感音難聴と診断されてもメニエール病が隠れていることがあります。
では、なぜリンパ液が溜まってしまうのかというと、内耳のリンパ液の状態を正常に保っているのは自律神経ですが、自律神経は細かい血管を介してリンパ液の供給と排泄の調節を行っているのです。が、何らかの原因で自律神経系の機能が低下すると内耳のリンパ液の調節ができなくなってリンパ液が溜まってしまうことが起こるのではないかということです。
自律神経の機能低下をおこす要因として次のようなことが考えられます。

(要因)
・ストレス
・疲労
・睡眠不足
・風邪などによる体調不良
・気圧変化(台風などの低気圧)
これらの要因はメニエール病とほぼ同じです。

(治療)
この内リンパ水腫を治す薬としてメニエール病治療薬と同じ浸透圧利尿薬イソソルビドが用いられます。また微細な血管の循環をよくするためにビタミンB12や代謝賦活薬ATP なども併用されます。また自律神経を安定させるため精神安定剤が用いられることもあります。
原因不明であるということは何らかの免疫異常が関与している可能性もあり、ステロイド薬を用いることも原因治療に適しているといえます。イソソルビドで改善しなければ、ステロイド薬に変更し著効することがあります。
治療期間は1〜2週間程度が多いです。数時間や2、3日での自然治癒もあります。治っていれば聴力検査も元に戻り治癒の証明になります。

(注意)
自然治癒もありといえ完治するのは6〜7割といわれております。治っても再発が多いこととメニエール病に移行した場合にめまいと難聴の進行を招いたりすることもあることを考えておかねばならないでしょう。
症状は似ていてもこの他に外リンパ瘻や突発性難聴(障害されている周波数は広範囲で程度も大、定義として再発しない)の可能性もありますので、1週間以上もゆっくり様子をみていた、ということは避けていただきたいです。突発性難聴は早く治療を始めないと改善しないので(早くても治らないことあり、循環障害説やウィルス説があるものの結局原因不明の疾患です)先ず耳鼻科受診をお勧めします。
急性低音障害型感音難聴が再発しないようにするためには、睡眠不足にならないように、ストレスをうまく発散して、疲労を感じたら早く休むようにするなどして生活することが大切です。