診療ノート

#50 COVID-19とADE

下気道炎を起こすウィルスとしては、コロナウィルス・RSウィルス・ヒトメタニューモウィルスが有名です。このうちRSウィルスは初感染の乳児では2~5%が重症化すると言われています。臨床像は細気管支炎と肺炎です。基礎疾患があると死亡率も高く、人工呼吸器による呼吸管理やECMOの適応となることもあります。

さて今回の新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の重症化の要因が、RSウィルスと同様に初感染が理由であれば、重症者の年齢や性別に偏りがあることが説明できません。仮説の一つに過ぎませんが、既に既存のコロナウィルスに感染して抗体を保有する個体が、今回COVID-19に感染した際、抗体依存性増強Antibody Dependent Enhancement(ADE)が起こっている可能性があります。既存のコロナウィルスの抗体はCOVID-19に対しては不完全な抗体です。不完全な抗体と結合したウィルスがマクロファージへ感染すると、そのマクロファージが暴走して、いわゆるサイトカインストームが起きて重症化する可能性です。事実RSウィルスワクチン・猫コロナウィルスワクチン・SARSワクチン・MARSワクチンの開発が頓座したのはこのADEが原因です。

そうなると現在各国が躍起になっているワクチン開発は楽観視できません。場合によってはRSウィルス感染症の唯一の予防薬である、抗RSウィルスヒト化モノクロナール抗体製剤(一般名パリビズマブ・製品名シナジス)の様な抗体製剤の開発の方が早いかもしれません。またウィルスの増殖に関係しているプロテアーゼTMPRSS2を阻害する既存の製剤も、重症化を抑える効果が期待されています。