診療ノート

#51 新型コロナウィルスは繰り返す

現在も猛威をふるっているCOVID-19(SARS-CoV-2)感染症ですが、実は過去にもヒトコロナウィルスによる世界的パンデミックが起こっていた可能性があります。その一つが1889年から流行して世界中で100万人以上が死亡したと言われている感染症の大流行です。インフルエンザH3N8の流行とされていますが、重症者に認められた神経症状がHCoV-OC43(ベータコロナウィルス属Human coronavirus-OC43の略)の症状に酷似していたのと(HCoV-OC43は神経毒性が強いと言われています)、その後の分子時計の解析でHCoV-OC43がウシコロナウィルスから分岐したのが1890年前後とされてから、このパンデミックはインフルエンザではなく、新型コロナウィルス感染症と言う説が有力となっています。(但し分子時計の解析は塩基変化速度がどの生物でも一定である事が前提です)。この感染症は1889年5月ロシア帝国ブラハに突如出現し、半年ほどで世界中へ広がりました。残っている当時の記録から推定された致死率は、1889年の第1波が約4%、1892年の第2波が約3.3%で、高齢者ほど致死率が高かったのが特徴です。その後人類はこのウィルスに対する免疫を獲得し、現在は普通の感冒のウィルスとなりました。
 この様に過去にも変異によってヒトへの感染力を獲得した新しいタイプのコロナウィルスの流行が繰り返されていた可能性が高く、この時の状況を詳しく解析する事によって、COVID-19感染症第2波の予想が可能です。また国別、年代別のHCoV-OC43の抗体保有率を調べる事よって、重症化の偏りの原因が何か分かるかもしれません。
 またコロナウィルスが変異してヒトへの感染力を持った過程には、中間宿主の存在と役割が大きいとされています。この中間宿主が何であったかは、変異の仕組みを解明する上で大変重要ですが、いまだに中国の協力が十分に得られない状態が続いています。

 何年か後にはCOVID-19もただの風邪のウィルスとなっているでしょう。しかし、ある日突然生まれてくる新興ウィルス感染症はこれからも繰り返し出現します。世界は心をひとつにして、今回のコロナパニックを教訓とする事が出来るのでしょうか?

まとめ

  1. 新型コロナウィルスは過去にも世界的パンデミックを起こした可能性がある。
  2. 流行の第2波は第1波の直ぐ後ではなく、数年後にやって来る可能性がある。
  3. 感染によって獲得した免疫は次第に抗体量が減少しても、次回感染時の重症化を防げる可能性がある。
  4. 公衆衛生学的解析には政治的・経済的変数は必要ない。