診療ノート

#17 乳児喘息

《病態生理》
成人喘息の定義は「好酸球が中心的な役割を果たす事によって生じる気道の慢性炎症」ですが、乳児喘息では好中球の関与が大きいとされています。したがって喘息のタイプもアトピー型よりも感染型の占める割合が多くなっています。また乳児の特異性は解剖学的・生理学的特徴が挙げられます。すなわち、乳児は気道内径が狭く肺弾性収縮力が低下していて、さらに気管支平滑筋が少なく、粘液分泌細胞や杯細胞が過形成を示し、また横隔膜が水平に付着して呼吸運動が小さい事などから、気道狭窄が強く現れやすくて、症状の進行が速い事が特徴です。

《診断》
早期に発見して適切な治療・管理を実現する為に、気道感染の有無にかかわらず、明らかな呼気性喘鳴を3エピソード以上繰り返した場合、乳児喘息と診断します。ただし、エピソードとエピソードの間に無症状の期間が1週間以上ある事が条件です。鑑別診断はほとんどがウィルス性細気管支炎です。原因となるウィルスには、RSウィルス・パラインフルエンザウィルス・ヒトメタニューモウィルスが挙げられます。

《原因》
発症・増悪因子として明らかになっているものとしては、出生時体重・遺伝子・アレルゲン・ウィルス感染・煙草の煙・大気汚染物質が挙げられます。

《治療》
発作時の治療と長期管理の為の治療とに分けられます。
発作時の治療:小発作ではβ刺激薬の吸入ですが、中発作以上ではステロイド静注や酸素投与が必要となります。重症例ではイソプロテレノール持続吸入や、アミノフィリン持続点滴を考慮します。
長期管理の為の治療:吸入ステロイド・ロイコトリエン受容体拮抗薬・Th2サイトカイン阻害薬の単剤または併用が基本です。吸入ステロイドやロイコトリエン受容体拮抗薬治療抵抗例にはTh2サイトカイン阻害薬が有効との報告があります。またTh2サイトカイン阻害薬は生後1ヶ月からの投与が可能です。

《最近の話題》
ステロイド抵抗性やロイコトリエン受容体拮抗薬抵抗性に関連する遺伝子が既に幾つか報告されています。将来遺伝子検査が容易になれば、あらかじめ薬の効果を予想して治療する事が可能になるかもしれません。

※参考文献:日本小児アレルギー学会作成ガイドライン